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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)5308号 判決

原告 沢口雅也

右訴訟代理人弁護士 川嶋冨士雄

同 野呂汎

右訴訟復代理人弁護士 青木学

被告 東邦生命保険相互会社

右代表者代表取締役 太田辨次郎

右訴訟代理人弁護士 円山田作

同 小木郁哉

同 饗庭忠男

同 円山雅也

右訴訟復代理人弁護士 町田宗男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

被告は原告に対し、金七二〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四六年六月三〇日以降右完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言

(被告)

主文同旨の判決

第二当事者の主張事実

(請求の原因)

一  原告は、津地方裁判所昭和三四年(ケ)第五三号不動産競売事件(昭和三四年一〇月二〇日競売開始決定、以下、本件競売という。)において、訴外二宮喜市郎(以下、二宮という。)所有の別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という。)を代金七二〇、〇〇〇円で競落し、昭和三六年六月二六日競落許可決定を得て右代金を支払い、その頃右土地の引渡をうけた。

二  被告は、右競売事件の申立債権者として、同年八月九日前記競落代金七二〇、〇〇〇円に対し配当要求をし、その全額を配当金として受領した。

三  しかるに、訴外国は、原告が前記競落により引渡をうけた土地は国有地の一部であって、訴外津市が現に占有中であることを理由として、原告に対し、土地明渡および妨害排除請求訴訟(津地方裁判所昭和三八年(ワ)第二二号)を提起し、原告は、これに応訴して上告審まで争ったが、右訴訟は昭和四三年七月一六日上告棄却の判決によって原告の敗訴が確定し、原告は本件土地の使用・収益をすることなく、これを訴外国に引渡した。

四  原告は、登記簿に表示された本件土地の所有権を取得するため、これを競落し、その代金を支払って、その引渡をうけたものであるところ、本件競売当時、本件土地は、後に原告が引渡をうけた場所には存在していなかったものであるから、その存在することを前提にすすめられた右競売手続は無効という外なく、また競落の結果二宮と原告との間に生じた売買は、いわゆる原始的不能を目的とする売買として無効である。

五  そうすると、被告が本件競売手続において配当をうけた金七二〇、〇〇〇円は、法律上の原因を欠くものであって、それにより、原告は、右同額の損失を被ったのであるから、被告は原告に対し、右金七二〇、〇〇〇円を不当利得として返還すべき義務がある。

六  よって原告は被告に対し、右金七二〇、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四六年六月三〇日以降右完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(認否)

本件競売手続が無効であって、被告の受領した配当金七二〇、〇〇〇円が不当利得になるとの点を否認し、その余の事実は認める。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告主張の請求原因事実については、本件競売手続が無効であって、被告が配当をうけた金七二〇、〇〇〇円が不当利得になるとの点を除き、当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫によれば、

1  津地方裁判所は、本件競売手続において、本件土地の地価を訴外西口尚貞(以下、西口という。)に、賃貸借の取調べを執行官柳田隆三に命じ、西口と柳田は現地に赴き、二宮の指示と土地台帳、地積図により、本件土地の範囲を別紙図面イイ′IFEニCBAリヌルオイの各点を結ぶ範囲と認めてその調査を終了し、西口は、本件土地の評価額を九〇六、〇〇〇円とする評価書を裁判所に提出したこと、

2  原告は、本件土地の競落後、右範囲の土地の引渡をうけてこれを占有したところ、訴外国は、別紙図面イロハニホヘトチリヌルオイの各点を結ぶ範囲(以下、係争部分という。)は、国有地であって、津市偕楽公園の一部であると主張して、原告主張の訴訟を提起し、第一審では、別紙図面ニホヘトト2イ′ロハニの各点を結ぶ範囲についてのみ訴外国の主張を認めた一部勝訴に終ったが、訴外国は名古屋高等裁判所に控訴し(名古屋高等裁判所昭和四〇年(ネ)第二〇七号)、同裁判所は、昭和四二年八月二〇日原判決を変更して、訴外国の全面勝訴の判決を下し、右判決は、当事者間に争いのない上告棄却の判決(最高裁判所昭和四二年(オ)第一三五九号、昭和四三年七月一六日言渡)により確定したこと、

が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  原告は、競落土地として引渡をうけた場所に本件土地が存在しなかったから、本件競売手続は無効であると主張するのであるが、競落土地として引渡をうけたところが実は第三者の所有するところであったとしても、そのことから直ちに、競落土地が架空のものであって、いずこにも存在しないということはできないから、その故に競売手続が当然無効となるとする原告の主張は理由がない。

また仮に、原告が前記認定の評価書等に記載された別紙図面イイ′IFEニCBAリヌルオイの各点を結ぶ範囲を本件土地と考え、これを競落したところ、本件係争部分が、実は訴外国の所有するところであったため、その部分の所有権を取得することができなかったというのであれば、このような場合原告は、民法第五六八条、第五六三条に従い、先ず債務者である二宮に対し契約の解除または代金の減額を請求し、債務者が無資力のため、代金の全部又は一部の返還をうけることができないときに限り、配当をうけた債権者の右代金の全部又は一部の請求をすることができるのであって、債務者に対し、競落土地の売買契約の全部または一部を解除することなく、いきなり配当をうけた債権者に代金の全部または一部の返還を求めることは許されないと解すべきであるから、原告の主張は、いずれにしても理由がない。

四  よって原告の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野崎幸雄)

〈以下省略〉

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